二輪車の種類

 二輪車には、多種多様な製品が存在し、他産業との境界が曖昧です。ここでは、まず二輪車の定義をおこないます。次に自転車に近い形態のものから四輪車に近い形態の三輪車まで、二輪車産業に含まれる可能性のある製品の種類を示し、二輪車の構造分析をおこなうに当たって必要な産業の境界を明らかにします。それとともに、本Webサイトで用いる二輪車の分類法を示したいと思います。

 

1.二輪車の定義

 「二輪車」とは“二つの車輪を持ち、原動機を主たる動力とするもの”をいいます。広義には二輪車を自動車に分類することもありますが、本Webサイトでは狭義の解釈をして区別します。これは、本Webサイトにおいて「自動車」は四輪車*1を指すことを意味しています。

 ここでいう原動機とは主としてガソリンエンジン*2を指します。非常に少数ですが、ディーゼルエンジンや電動機(モーター)を動力とする二輪車も存在します。

 なお、本Webサイトでは自転車を二輪車には含めません。二輪車を文字通り厳密に解釈すれば、自転車も二輪車に分類できることにはなりますが、既に「自転車」は固有名詞化しており、一般に二輪車といえば原動機付きの乗り物を指すからです。

 

2.境界領域にある二輪車

 「二輪車産業」は、広義には自動車産業の一つに分類されます。しかし、二輪車産業と自転車産業及び自動車産業との境界は曖昧であり、区別は難しいといえます*3。19世紀後半の初期の二輪車は、自転車を改造して原動機を取り付けたものがほとんどです*4。1885年、初期の二輪車として有名なGotlieb Daimlerのライトラード(騎乗車)も厳密には補助輪付きの四輪車だといえなくはありません*5。境界領域にある製品を以下に示したいと思います。

@「電動補助自転車」

1993年に登場し、「電動ハイブリッド自転車」、「電動アシストサイクル」、「電動自転車」とも呼ばれます。法律上は「人の力を補う*6ため原動機を用いる自転車」とされ、時速24km以上の速度で電動機の補助が無くなるように法律で定められています(道路交通法施行規則第一条の三)。1999年現在、日本の二輪車メーカーでは、カワサキを除くヤマハ、ホンダ、スズキが電動補助自転車を販売しています。

A「補助エンジン*7付自転車」

文字通り、自転車に補助エンジンを取り付けたもの。日本の二輪車メーカーはここから始まったといってもよいでしょう*8。現在でも小さな排気量*9の二輪車に法律上、“原動機付自転車”の名前がつけられているのはその名残りです*10。現在、自転車取付を目的とした製品の生産はおこなわれていません。

B「モペッド」

50cc以下のエンジンで、シンプルな車体構造を持つ小型の二輪車です。モペッドはMotor+Pedalの造語であり、本来はペダルがついているものを指します。日本ではPetの意味も込めてモペットと呼ばれることもあります。欧州では無免許で乗れる国もあり、かなり普及しました。日本では法律上、原動機付自転車に分類され、免許及びヘルメット着用が義務づけられている*11ため、欧州のように普及はしませんでした。

C「スクーター」

ステップボード(足を乗せる部分が板状になっており、両足をほぼそろえられるもの)、シート下のエンジン、小径タイヤを持つ二輪車です。1960年代までのスクーターは「モータースクーター」とも呼ばれていました。三輪のスクーターも存在します。スクーターは現在においては統計上、二輪車に含まれていますが、1960年代後半までは二輪車、三輪車と並ぶものとして統計がとられていました。現在、小型の二輪車の中では最も販売台数が多くなっています。

D「側車(サイドカー)付二輪車」

側車がついている二輪車。戦時中はその機動性が注目され、各国で用いられました。1955年頃までは側車がついた状態で販売されていましたが、現在では二輪車と側車は別々に販売されることがほとんどです。また、1956年10月までは側車付自動二輪免許が存在しており、独立して統計がとられていました。サイドカーによるレースも開催されています。

E「三輪車(1975年以後に生産されたもの)」

1975年に生産が始まった三輪車はスクーターの後輪を二輪としたものが主流です*12。統計上は二輪車に分類されます。荷物の積載性に優れるとともに転倒の心配が少ないこともあり、酒店やピザ店等の配達に用いられることが多くなっています。なお、現在では高齢化社会の到来を背景として「電動三輪車」*13の市場が拡大しつつあります。

F「三輪ATV(ATV:all-terrain vehicle)」

荒れ地走行に強い低圧タイヤ(バルーンタイヤ)を持ち、農場や牧場作業用及びレジャー用として開発された三輪車。三輪バギーとも呼ばれます。エンジンは既存の二輪車用が流用されることが多いようです。アメリカでは農作業用として普及し、三輪ATVによるオフロードレースも盛んにおこなわれていました。しかし、事故が多発し、安全性に問題があるとされたため、アメリカでは販売が禁止されています。日本では、公道走行が前提とされていないこともあり、見かけることは少なくなっています。現在は四輪のATVのみ、生産がおこなわれています。

G「三輪車(1974年以前に生産されたもの)」

 「オート三輪」とも呼ばれます。初期のものは前半分が二輪車そのものであり、後ろ半分を荷物が積めるように改造したものでした。それに改良が加えられ、徐々に四輪車に近づいていくことになります。小回りが利く三輪車は、道路が狭い日本で独自の発展を遂げました。四輪車に近い形態の三輪車は1974年まで生産がおこなわれ、街中でよく見かけることができました。しかし、四輪の軽自動車が普及したこと、及び道路整備が進み、平均走行速度が上がるにつれて安定性の面で問題が発生したことで衰退し、現在では街中で見かけることはほとんどありません。三輪車は1970年代までは二輪車、四輪車と並んで分類され、統計がとられていました。

 以上の境界領域にある製品を自転車と四輪車の間に並べると図−1のようになります。

 

図−1 二輪車の範囲
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 本Webサイトにおいては、「側車付二輪車」、「三輪車(1975年以後に生産されたもの)」、「三輪ATV」「モペッド」及び「スクーター」は二輪車産業の製品として扱いたいと思います。(図−1点線内)「三輪車(1974年以前に生産されたもの)」、「補助エンジン付自転車」及び「電動補助自転車」は二輪車産業の製品としては扱いません。これらの分け方は外観、使用目的、操作方法そして統計上の問題によります。1974年以前に生産された三輪車は外観上、四輪車に近く、使用目的も四輪車に近いため二輪車には含めていません。「側車付二輪車」は外観上、二輪車に側車がついただけなので二輪車産業の製品としました。「スクーター」及び「1975年以後に生産された三輪車」は外観上、一般的な二輪車とは多少異なりますが、小人数の移動及び小荷物の搬送に用いられるという点では同じで、法律上及び統計上も二輪車に分類されます。「三輪ATV」も外観上は二輪車に近く、操作方法も二輪車とほぼ同じです。「補助エンジン付自転車」については、補助エンジンに関して技術上は二輪車に分類できますが、車体は自転車そのものであることもあり、今回の定義では二輪車に含めません。「電動補助自転車」は“二つの車輪を持ち、原動機を動力とする”点では二輪車といえますが、エンジン動力のみでの走行は不可能であること、さらに法律上も自転車に分類されるため二輪車には含めていません。

 

3.二輪車の分類法

 二輪車の分類法には排気量による分類、使用目的による分類*14及びエンジン形式による分類*15等があります。本Webサイトでは生産側からの考察を目的としているため、排気量別の分類法を採用しています*16

 二輪車の排気量別の呼称は車両に関する「道路運送車両法」*17と交通安全に関する「道路交通法」*18とでは以下のように異なっています。(表−1を参照)

表−1 二輪車における排気量別呼称


 
〜50cc 50cc超〜      
            125cc
125cc超〜     
          250cc
250cc超〜
   400cc
400cc超
道路運送車両法*19 第一種原動機付自転車 第二種原動機付自転車 二輪の軽自動車
 
二輪の小型自動車
 
道路交通法*20 原動機付自転車 普通自動二輪車*21 大型自動二輪車

 

 本Webサイトでは二輪車の呼称に最も一般的だと思われる次の言葉を使用します。

        ・排気量が125ccまでの二輪車:「小型二輪車」*22
        ・排気量が125cc超〜400ccまでの二輪車:「中型二輪車」*23
        ・排気量が400ccを超える二輪車:「大型二輪車」*24

 二輪車で分類が必要なのは、それぞれの分類における使用目的が異なるからです。小型二輪車は経済性(維持費、燃費)が良いため、“生活の足”としての性格が強くなっています*25。この場合、あくまでも目的は“移動すること”であり、二輪車はその目的を達成するための手段に過ぎません。中・大型車になるほど“趣味・遊び”の要素が大きくなります。なお、二輪車全体の統計上は小型二輪車が約三分の二を占めています*26


*1 バス、トラック等の四つ以上の車輪を持つ自動車も含みます。

*2 レシプロエンジン(ピストンによる往復運動を回転運動に変換して動力を取り出すもの)だけではなくロータリーエンジンも含みます。なお、ロータリーエンジンを搭載した二輪車の試作は1970年代前半に各メーカーでおこなわれていましたが、オイルショックの影響等もあり、日本のメーカーで量産されたものはスズキの「RE-5」(1974年、輸出専用車)だけとなっています。

*3 産業境界を引くことの難しさについてはR.E.Caves,American Industry:Structure,Conduct,Performance,7th ed.,Prentice-Hall,1992,pp.6-8.(産業組織論の入門書です)を参照してください。

*4 世界最初の二輪車は、1868年にフランスのパリでPierre Michauxと彼の息子Ernestの手によって製作されました。小型のスチームエンジンを搭載して、革ベルトで後輪を駆動していたようです。しかし、出力が低く最高速度は10m.p.h(約16km/h)程だといわれています。Philip Summer,B.Sc.,MOTORCYCLE,A Science Museum illustrated Booklet,Her Majesty’s Stationery,London,1972.

*5 つまり、二輪のみの自立走行が可能であったものではありません。本格的に自立走行可能な二輪車は1894年、ドイツのミュンヘンでHilderbrandとWolfmullerによって製作されています。最高速度は24m.p.h(約38km/h)程であったといわれています。中村良夫「オートバイ100年の技術の歴史」、『自動車技術』41(1)、1987年、27ページ及びPhilip Summer,B.Sc.,op.cit.より。

*6 電動機はあくまで補助動力のため、人がペダルを踏む力以上の出力は出せない設計となっています。

*7 自転車取付型のエンジンは単体で“バイクモーター”とも呼ばれていました。

*8 国産二輪車の始まりにはいくつかの説があります。1909年、大阪の島津楢蔵が400ccのエンジンを自作し、輸入自転車に乗せて走りました。島津はエンジンの動作原理を研究した上でエンジン製作をおこなっている為、国産二輪車の始まりをこの時点とすることが多いようです。

*9 エンジンなどの内燃機関で、気筒内のピストンが一番下の位置から一番上の位置まで移動する時に排出される気体の量。数値が大きいほどスピードも出て、重い荷物が運べます。

*10 “原動機付自転車”の呼称は車両の実態に即していないので変更すべきだと考えます。

*11 1986年から義務化されました。

*12 1975年に販売を始めたのはダイハツ工業の「ハロー」です。ダイハツ工業株式会社広報部編集『燃えて 駆けて ダイハツ80年のあゆみ』ダイハツ工業株式会社、1987年、79ページ。なお、現在の二輪車であっても、販売店で後輪を二輪に改造し、陸運局に申請をすることで、自動車として登録することが可能です。これらは、二輪車の通称の一つである「バイク」をもじって「トライク」と呼ばれています。法律上は自動車の扱いとなり、運転免許も自動二輪車免許ではなく、普通自動車免許が必要となります。ヘルメットの着用義務がなくなり、高速道路の二人乗りも可能となりますが、街中ではあまり見かけません。

*13 スズキ、ホンダ、株式会社クボタ、三洋電機株式会社等が生産をおこなっています。免許不要で最高速度は6km/h。四輪のものもあります。

*14 二輪車の機能別分類については『1997年版 世界二輪車概況』本田技研工業株式会社、26-28ページに以下のような例が示されています。
    ・ビジネス :商用二輪車。実用性・経済性・耐久性重視で小型二輪車が中心。
    ・ファミリー:通勤・通学・買物向け。小型二輪車が中心。
    ・スポーツ :走行を楽しむことを目的とする二輪車。中・大型二輪車が中心。
               オンロード・オフロードスポーツ、競技用車両等があります。

    ・レジャー :遊びの要素と機能的な工夫が取り入れられた個性的な二輪車。
               小排気量車、とくに第一種原動機付自転車が中心。

    ・スクーター:第一章第二節のC参照。

*15 エンジン形式による分類のための項目には以下のようなものがあります。
    ・2ストローク − 4ストローク
    ・4ストロークの場合の動弁機構:
       SV(サイドバルブ) ― OHV(オーバーヘッドバルブ) − OHC(オーバーヘッドカムシャフト) −  DOHC(ダブルオーバーヘッドカムシャフト:ツインカムともいいます。)
    ・単気筒 − 多気筒

    ・多気筒の場合:直列 − 並列 −V型

*16 通産省や日本自動車工業会による統計は排気量別です。

*17 道路運送車両法の目的は「この法律は、道路運送車両に関し、所有権についての公証を行い、並びに安全性の確保及び公害の防止並びに整備についての技術の向上を図り、あわせて自動車の整備事業の健全な発達に資することにより、公共の福祉を増進することを目的とする。」とされています。(道路運送車両法第一条)

*18 道路交通法の目的は「この法律は、道路における危険を防止し、その他交通の安全と円滑を図り、及び道路の交通に起因する障害の防止に資することを目的とする。」とされています(道路交通法第一条)

*19 道路運送車両法施行規則第一条及び第二条によります。

*20 道路交通法施行規則第一条の二及び第二条によります。

*21 125cc以下の普通自動二輪車に限り運転することができる普通二輪免許は、運転免許制度上、「小型限定普通二輪免許」と呼ばれます。

*22 小型二輪車の中でもとくに50ccまでの二輪車を指す場合には「第一種原動機付自転車(以下、「原付一種」と)」の呼称を、50cc超〜125ccまでの二輪車には「第二種原動機付自転車」の呼称が用いられています。

*23 中型二輪車の中でもとくに125cc超〜250ccまでの二輪車を指す場合は「軽二輪」の呼称が用いらています。

*24 海外において「中型二輪車」と「大型二輪車」の境界は650cc前後のようですが、日本においては運転免許制度との関係で400ccを境とする見方が一般的であるように思います。

*25 ホンダの「スーパーカブ」が良い例です。

*26 1997年、生産台数で計算しています。

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